⑨ 主要項と補正項 ~非対称性とカウンターバランス~

4本の弦の並びと弦張力の違いにより、楽器がねじれる方向は決まります。
従って、そのカウンターバランスの方向も、自動的に決まります。
カウンターバランスを考慮に入れるとき、
ネックは右側にねじらなければならないことを、
前回フォノグラムを見ることにより、確認しました。
このように、はっきりと方向の決まったカウンターバランスを、
「カウンターバランスの主要項」と呼ぶことにします。
これに対して、同じカウンターバランスでも、
方向がまちまちで一意的に決まらないものを、
「カウンターバランスの補正項」と呼ぶことにします。

主要項については、フォノグラムなしでも、
弦の張力やそれによって共鳴版にかかる圧力や、応力を考察していけば、
純粋に物理的な問題として片付けることができます。
補正項は、無視しても良いほど小さな誤差項のようなものと考えがちですが、
音と形の関係においては、ほんの小さな狂いがとても大きな影響として現れてきます。
実は、こちらの補正項の方がコントロールが難しいのです。
フォノグラムは、この微妙なコントロールを可能にする技術です。
今回は、このカウンターバランスの補正項について考えていきたいと思います。
ヴァイオリンの横板の厚みのバラつきや、パフリングの位置の微妙な位置のズレについて、
フォノグラムを通して考察してみたいと思います。

以下が横板とブロックの構造です。
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6枚の横板が、6片のブロックに取り付けてあります。
この6枚の板の厚みも、ブロックのサイズも微妙に違ってきます。
古い楽器も、横板の厚みがバラバラです。
特に、ネックのようにある方向性のあるカウンターバランスではなく、
単にバラバラなのです。

フォノグラムによる制作法では、音を聞きながら共鳴が強くなるようにデザインしていくので、
そうなるのは当たり前なのですが、
ひょっとしたら昔の製作者も同じ方法で作っていたのではないか、
と思うフシがあります。
このことについては、いずれまたの機会に触れたいと思います。
また、各パーツもフォノグラムで作っていくのですが、組み上げた時に、
ほんの紙一枚分の差でも共鳴状態は変わってしまいます。
組み上げるごとに、修正が必要になってきます。

横板もブロックも裏板もこの形状になったとき、すべてをフォノグラムの意味で、
統一体にしなければいけません。
すべての音を合わせるように、ヤスリで微調整していきます。
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表板も取り付けて完全な箱にしてしまいますと、もう内側は削ることができません。
(実際には金具の先にヤスリを取り付けて、削ることもしますが、、。)
取り付けたことによる、歪みがフォノグラムの渦として現れますので、
これを丁寧に消していきます。視覚的なフォノグラムの渦を消していく操作と、
聴覚的に削る音を聞いて、共鳴最大にしていく操作は同値です。
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この状態は、まだネックも4本の弦も取り付けていない状態ですから、
最終的な修正の余地は残す程度に音を合わせていきます。
このようなコントロールも、フォノグラムの図形パターンを調べることにより可能です。

横板の厚みは、さほど4本の弦の張力の違いにより生じる応力の影響を、受けないようです。
むしろ、全体の共鳴状態との整合の問題、フォノグラムの問題のような気がします。
つまり、カウンターバランスの補正項こそが、フォノグラムが扱う領域なのです。
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次に、パフリングの位置について調べてみたいと思います。
パフリングは、音響的にはない方がいいに決まっています。
しかし、それでもこの形式が取られている合理的理由は、
共鳴版の割を防ぐ効果と、装飾の美しさからであると考えられています。
パフリングが入ると、楽器全体が引き締まって見えます。

現在では、楽器の淵から等距離に、正確にカッターで切れ込みを入れて埋め込んでいくのですが、
古い楽器には、淵からの距離が、場所によって微妙に違うのです。
これも、フォノグラムを取れば理由がはっきりします。
閉じたフォノグラムラインは、クラドニモードと一致すると考えられます。
つまり、振動の節にあたる部分です。
楽器は、この波の節に当たるラインだけでデザインされていれば、理想的になるはずです。

楽器の淵、アウトラインも等音線でデザインしています。
波動方程式の境界条件を作っていると考えていいでしょう。
そうすることで、波動方程式の境界条件に従う解を、恣意的にコントロールするわけです。

最終的に弦を張った状態では、アウトラインのフォノグラムも応力の影響により、
歪みを受けます。この場合、
カウンターバランスをとるためにパフリングの位置をきめるというよりも、
フォノグラムラインに沿って正確にパフリングを施すことによって、
パフリングが振動の節の位置に来るように調整してやる必要があります。
これも、カウンターバランスの補正項と考えてよさそうです。
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フォノグラムの典型的なパターンの一つ、同心型のパターン。
アウトラインの音が揃っていくと、
アウトラインから等距離に稠密にフォノグラムラインが並びます。
その上に重なるように、パフリングを施していけばいいわけです。
当然、場所によってアウトラインからの距離が、微妙に変わってきます。

つづく