等音面の理論 ~音響対称性の数理~

フォノグラムの実証から半年が経ちました。(2013.06.19の過去記事です。)
これについて論文にまとめたものが第一論文「音の作る形」でした。
実証が長いあいだ出来なかったおかげで理論を進めることができました。
もし実証がすんなりできていれば理論は育たなかったと思います。
以下は公に発表する研究発表(第二論文)の要約です。
数学者に向けて発表する内容ですので難しいかもしれませんが
これこそ私が長年、考えてきたことなのです。
ちなみに次の論文は、音楽とフォノグラムについてのものです。
音楽が時間的対位法ならばフォノグラムは空間的対位法であるということをテーマにして
音楽と数学、時間と空間についての論考を予定しています。

等音面の理論   ~音響対称性の数理~

本稿は、音響対称性の概念に基づいた、
「等音面」の数理物理学的研究の導入についてのものである.
筆者論文「音の作る形」において、従来のヴァイオリン製作法とは、
根本的に異なる方法を提示した.
それは、形から音を決定するのではなく,
音(タッピングトーン)から形を決定するという方法であった.
これこそ共鳴の原理に立脚した方法であり,等音面(音響的な対称性)なる概念に導かれた.
また、圧電スピーカーを利用する測定方法により,
タッピングトーンに基づく制作法が科学的に正当化された.
測定により明らかにされたのは,等音面が,
見事に共鳴板の各点において同一の振動数分布を示したという事実である.
また、同様に、等音面でない共鳴板は,固定端(外枠)が同じでも、
共鳴板の各点の振動数分布は全く異なっていることがはっきりと示された.
この結果を踏まえて,等音面の実現が,ヴァイオリン制作上の根本原理になりうることを示した.
そこで本稿では、音響対称性という概念をより抽象化、厳密化するために、
等音面の数理的研究に着手する.我々の実験が明らかにしたことは、
音響対称性を高くしていくに従って、共鳴板の各点における振動数分布が,
ある一つの分布状態に収束していき、またその時、物理的、幾何学的形状が、
ある理想形体に収束していくという事実である.
そこで次のような命題を立てることができる.

「理想等音面とも言うべき、音響対称性が最も高い状態の振動数分布とは、
 一体どのような分布に収束していくだろうか?またその時の幾何学的形状は?」

少し考えれば、その振動数分布状態はホワイトノイズ型になるであろうと,
予想される.(ホワイトノイズ型の定義はあとで行うものとする.)
また、幾何学的形状は、ある操作の極限として定義される対象物となる.
このような命題を数学的に定式化し、実験事実と論証によって証明を与え、
厳密な演繹体系を構築していくのが本稿のテーマである.
等音面及び音響対称性の数理を解析していく過程において、
非常に豊富な数学的構造が隠れていることを明らかにする.
従来の音と形に関する数理的研究で有名なものは、
Kacの論文「Can one hear the shape of a drum ?」に代表される等スペクトル問題の研究がある.
本稿における研究手法は、それらの先行研究と本質的に異なるものである.
Kacに代表される音と形の研究は、純数学的に演繹されたものであり、
微分方程式の境界値問題として、定式化されたものである.しかし我々の出発点は、
物理的実証実験で得た結果より帰納的にその数理を構成していくところにある.
等音面を構成する方法は、「部分と全体の情報を同時に含む、
響きという量:タッピングトーンに基づいたものであり、
非線形問題の典型であることも重要な論点である.
また、等音面の実現には、和声法等の音楽理論が本質的な役割を果たしている.
我々の構築する数学的理論が、物理的実験結果のみならず、
これら音楽理論との整合性を図るものであることを示すことができる.
以上のような観点から、Kacらの研究との比較について論じ、
スペクトル幾何学からは決して演繹することができないであろう数学的構造の存在を示す.
また、ホワイトノイズ解析などのホワイトノイズの定義も、
本稿に出てくるホワイトノイズの定義と基本的に異なる.
我々のホワイトノイズの定義は、操作の理想極限として定義される.
そして、それが互いに素な振動数比の無限集合を構成することを示す.
この無限集合は比の集合であり、スケール変換普遍という性質を持つ.
我々の研究は、あくまで、実験事実から得られた事実から帰納的、
発見的に数理を構築していく数理物理学的な研究手法であり、
既成事実から演繹される純数学的な研究手法ではないことを強調しておく.
また、ここで示された実験事実は、筆者論文「音の作る形」において初めて示されたものである.
まず初めに、実験結果からタッピングトーンが、
「響き方」を測る量であることを数学的に定式化することから始める.
「音を聞いて削る」という操作を定式化することにより、連続群の構造を持つことを示す.
この連続群を音響変換群と名づけ、それが作用する空間を関数空間の特別の場合として、
定義する試みをする.また、この変換群における不変量が、
「ホワイトノイズ不変量」であることを示し、
その時、リーマン面の理論における一意解析接続と「音を合わせて掘る」という操作が、
形式的に一致することを示す.
また、幾何学的形状が操作の極限として現れる数学的構造を示し、
その結果、数学の異なる概念の間に橋を架ける試みをする.
また、新たに導入された概念については「定義」を与え、
若干の「公理」と「共通概念」を仮定しさえすれば、
全ての事実はそこから導かれるような形式公理系の研究も並行して進める.
物理学の公理化は、あまり意味をなさないという意見もあるが、
本研究のような数学、音楽、物理学が横断するような対象に関しては、
有効な研究手法であるように思える.
等音面の実現には生理的反応に基づく和声学的な事実を公理としなければ不可能である.
しかるに、等音面の実証、測定には、その公理は不要である.
これは、科学とは何か?音楽とは何か?
という学問の境界を示すことにもつながる研究にもなると思われる.
公理をどこまで仮定するかによって、各学問分野が重なるところ、
独立なところをはっきりさせることができるということで、
公理的研究は意味があるのである.
楽器制作研究は、音楽と数学、物理が衝突する大変興味深い研究対象なのである.
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