② 無視できない「応力」  ~非対称性とカウンターバランス~

前回は共鳴版に真上から圧力を加え、
フォノグラムがどう変化するのかを観察しました。
実際はE線の弦張力が強いため、圧力は真上から均等にかからず、
E線側により強い圧力がかかります。
今回は、このことを中心に考えていきたいと思います。

実験;E線側に不均衡に圧力をかけた時、フォノグラムはどう変化するか?

まず、前回と同様に、*1音だけ圧力を加えてみます。(*意味は前回参照)
20120714044809525s
圧力が共鳴版に対して不均等にかかるので、
内部緊張も不均等になり、当然フォノグラムも歪みます。
しかもかなりの不均等が感じられます。
フォノグラムの渦の巻き具合で、均衡の崩れ度合いがわかります。
20120714044838a24s
ここまでは、実験しなくてもある程度予想することはできます。
実は、面白いのはこの次です。

さらに、もう1音上げてみます。
2012071404533181ds
なんと、圧力が不均等にかかっているにも関わらず、
フォノグラムは対称を保っています。
これは、内部緊張が均等であることを示しています。
20120714045352479s
これは、予想と反することのように思えます。
実際に実験してみないとわからないことです。

以上のことから何が見えてくるでしょうか?
前回のことを踏まえて考えますと、

①弦の張力は、縦方向に働くときは、歪みを補正する働きがるということ。

②弦張力による圧力が不均等に共鳴版にかかったとしても、
ある場合によっては、内部緊張は均等に保つことができる。

ということが結論されます。
共鳴版にかかる圧力(垂直方向)は、うまくバランスさせれば、
内部緊張を均等に保つことができるといえそうです。

次に、もう一つ実験をしてみます。
今までは、「応力;ねじれ」の問題を除外してきましたが、
これについて実験してみたいと思います。

実験;共鳴版をねじったり、ひねったりした時、フォノグラムはどう変化するか?

20120714050827550s
(クランプで共鳴版の端を固定し、片方にモノをはさんでひねった状態にする。
このひねりも音の変化の分だけひねります。1音だけひねるということです。)

以下が、その状態のフォノグラムです。
20120714051217127s
もはや、真っ直ぐな線は見られません。
さらに音を上げても、この歪みが解消されることはありませんでした。
弦張力による横方向の力の不均衡は、どうやら是正されないようです。

<まとめ>
①弦張力の縦方向の力の不均衡は、うまく調整さえすれば、
内部緊張を均等に保つことができる。これは、共鳴版だけの問題として、
考えることができると言えそうです。

②弦張力の横方向の力の不均衡は、どんなに調整しても、
内部緊張を均等に保つことができない。これは、共鳴版だけで問題を解決することができず、
別のところでカウンターのひねりを作ってやらなければならないことを示しています。
*これがネックを右に振ることに対応していることを後で見ます。*

これらの実験は、弦張力による圧力や応力のカウンターバランスを考える上で、
とても参考になるデータを与えるものであることがわかります。
これらは、熟練の職人が「勘」として片付けてしまっているものに、
新たな説明を与えることができると同時に、「量」として捉えることを可能にします。
圧力変化による内部緊張の違いを、フォノグラムの図形変化で捉えることにより、
カウンターの力をどのくらい与えておけばいいかを、正確に計算することができるのです。
例えば、垂直方向の弦の圧力15kgに対抗するカウンターバランスとして、
バスバーの両端を少し浮かせて、表板に圧着するというシュパヌングという技法がありますが、
これについても「勘」に頼らず「量」の問題として、もっと正確な捉え方ができるはずです。

次回から、これらの実験結果を踏まえた上で、
どうすれば正確なカウンターバランスを構築することができるのか、
ということを考えていきたいと思います。
フォノグラムを利用することにより、新しい「量」の計算法が確立することを見ていきます。
これは、そっくりそのまま整体技術に応用することができます。

*というよりも、自分の身体を調整する技術を、
そのまま楽器の調整に利用することにより、 フォノグラムの研究はスタートしています。
フォノグラムの正しさの保証は、
実は身体の内部感覚の充実度(それは主観的と言われてしまうかもしれませんが)によります。
客観的事実の羅列は、確かに足場にはなりますが、ほとんどがつまらないものです。
物事の確かさを測る、新たな基準のようなものが、
そろそろ考えられてもいいと思うのですが、、、。*

つづく